冬の寒い時期にエアコンの暖房をつけると、部屋の中の空気が乾燥してしまって困ってしまうことがありませんか?
実際にエアコン暖房使用時の湿度を測ってみると30~40%という低いレベルにまで湿度が下がってしまっていることと思います。
暖房時の部屋の空気の乾燥は、肌が乾いてカサカサになってしまったり、喉が痛くなったり、目が霞んだりするといった体調への悪影響を引き起こすだけではなく、部屋の湿度が下がることによって体感温度も下がってしまうため部屋が温まっていると感じられず、エアコンの設定温度を高くしてしまう(電気代が高くなる)ことの原因にもなってしまいます。
でも、一体どうしてエアコンの暖房をつけるとこんなにも室内の空気が乾燥してしまうのでしょうか?
エアコン暖房で空気が乾燥してしまう主な原因は、①空気が暖まることによる相対湿度の低下、②窓サッシの除湿作用、③24時間換気システムからの低湿空気の流入の3つとなります。
今回は、そんなエアコン暖房で空気が乾燥してしまう理由やメカニズムの解説から、乾燥を防ぐ具体的な方法について、詳しく解説していきます。
この記事の監修者「taichan」
エアコンの困った解決!15年以上の実績を持つ空調のプロ「taichan」があなたの快適な暮らしをサポートします。大学院でヒートポンプの研究を行い、特許も複数取得。大手電機メーカー勤務後はエアコン取付修理の実務経験も積んでいます。エアコン選び、使い方、故障・トラブル、クリーニング、省エネまで、どんなお悩みにもお答えします。【保有資格】電気主任技術者、電気工事士、冷凍機械責任者など
エアコン暖房の動作原理について
エアコン暖房で空気が乾燥してしまうメカニズムを理解するためには、エアコンの暖房がどのような原理で動いているかを知る必要があるため、まずはじめに、エアコン暖房の動作原理についてお話していきます。
エアコンの暖房運転はヒートポンプという技術を使って、室外にある熱を室内に移動させる事によって部屋を暖める仕組みになっています。
具体的には、まず、室外機(部屋の外に設置されている機械のこと)側の熱交換器(アルミフィンの部分)を外気以下の温度(5℃からー5℃程度、常に外気温より5℃ぐらい低い)になように、熱交換器の中を通る冷媒(エアコン配管の中を流れる流体のこと)をわざと冷たい状態にします。
そうしてやると、冷媒によって冷たく冷やされた室外機の熱交換器は、室外機に取り込まれた暖かい外気によって暖められます。
エアコンの暖房時、室外機ではこのようなメカニズムで、外気が持つ熱を熱交換器の中に流れている冷媒に受け渡すことで、室外の熱をどんどん吸い取っています。
その後、その室外機で熱を受け取った冷媒は室内機(部屋の中についているエアコンのこと)の方まで流れてきて、室内機の中にある熱交換器(フィルターの奥に見えるアルミフィンのパーツ)に到達します。
この時のアルミフィン熱交換器の中を流れる冷媒の温度は約50℃前後となっています。
室内機の中にあるファンは室内の冷たい空気を吸い込んで、約50℃に暖められた熱交換器を通過させることにより、空気を温めます。
その熱交換器で暖められた空気は、その後、吹出口から温風(室温+20℃前後)が吹き出されるという形で、再び室内に戻されます。
これが、エアコン暖房の基本原理となります。
より簡単に言えば、エアコンの暖房をONすると、室内機側の熱交換器(室内のエアコンのカバーを開けて、フィルター奥に見えるフィンのこと)の表面が熱くなり、そこに室内の冷えた空気を流し込んで温め、その暖められた温風が吹出口から出てきていると考えておけばOKです。
ですので、エアコンは室内の空気を吸い込んだ後、その空気を温めてから吹き出しているだけなので、基本的にはエアコンの暖房では室内外の空気の入れ替わりはありません。
エアコンの室内機は、ただ単に室内の空気を吸い込んで、温めてから吹き出すということを繰り返しているだけとなっています。
気になる空気の乾燥についてですが、エアコンの暖房運転では部屋の中の空気と室外の空気の入れ替わりがないため、部屋から湿気がなくなっていく(部屋の中に存在している水分が室外に出される)ということはなく、エアコン動作前の冷えた部屋にあった水分の総量と暖房後の温まった部屋の中にある水分の総量について変化はありません。
このように、エアコン暖房の動作原理を考えると、部屋の中の水分量そのものには変化はなく、一般的に感じられる「エアコン暖房をつけると湿度が下がって部屋が乾燥する」ということとは矛盾してしまう結果となります。
エアコンの暖房運転によって室内外の空気の出入りがない(部屋の外に水分が出ていっていない、暖房前後の部屋にある水分量に変化はない)のに、部屋の湿度が下がって乾燥してしまうのはどうしてなのでしょうか?
ここで少し話が変わりますが、エアコンの冷房運転の場合は、暖房運転とは逆で室内機側の熱交換器を冷やすことで冷たい風を室内に放出しています。
このため室内のエアコンに吸い込まれた空気中に含まれる水分が冷えたフィン表面で凝縮して結露水となり、それがドレンホース(室内機に接続されている露を室外に排出するためのホース)を通って室外に排出されるため、冷房運転中は部屋を冷やすだけではなく、部屋の湿気を室外に排出する除湿という機能も同時に作動しているということになります。
夏場に冷房運転を行っていると室内機に繋がれたドレンホースから部屋の中の空気中から奪ってきた水分を排出しています。
それに対して、暖房運転を行っている場合、部屋の中にある室内機の中の熱交換器のフィン部は熱い状態(約50~60℃)のため、エアコンの室内機に吸い込まれた部屋の空気がその熱交換器を通過してもそこでは水分の凝縮(空気が冷やされたときだけ発生する)は起こりません。
ですので、暖房運転中は、室内機から室外に水分は排出されておらず、実際に室内機に接続されている方のドレンホースの先端をバケツなどに突っ込んでおいても、水が出てこない事が確認できます。
ここまで理解するとわかってくると思いますが、一般的な安価なエアコンの暖房運転では室内から室外に排出される水分はないということを理解しておきましょう。
ここまでしっかりとエアコンの動作原理について解説したのは、稀にエアコンの暖房運転も冷房運転と同じような除湿作用があるから部屋が乾燥してしまうんだと勘違いしてしまう場合があるからです。
ここまでの話を理解することができれば、エアコンの暖房運転でも冷房運転と同じような除湿作用が働いて室内が乾燥してしまういうことはないことがわかると思います。
室内をひとつの空間と考え、エアコン暖房はそこに出入りしているのは熱だけ(エアコン暖房をONする前と部屋が温まった後で変化しているのは、部屋の中にある熱の総量だけ)ということを理解することが重要です。
【乾燥原因その1】空気が温められて相対湿度が下がるため
エアコン暖房で空気が乾燥してしまうのは、「湿度」(相対湿度のことを意味する)が下がってしまうことが一番の原因です。
相対湿度とは一般的な湿度計で%表示されているもので、その意味は「今の空気の状態(温度など)で含むことができる水分量を100%とした時、今の空気中に含まれている水分の量はどれだけか?」ということを表示したものになります。
例えば、「現在の湿度が40%です。」という場合、この温度の空気であれば、あと60%の水分を含むことができるということになります。
天気予報や簡易的な湿度計などの場合、この相対湿度を使った%表示がほとんどとなりますので、まずはこの相対湿度の意味を理解しておきましょう。
それに対して、絶対湿度[kg/kg]とは「1kgの空気に含稀ている水分重量」のことをいいます。
相対湿度とは違って絶対湿度の場合、単純に重量で表示されています。
ここで冬場の暖房運転を想定すると、エアコンは室内の空気を吸い込んで温め、また室内に吹き出しているということを思い出してみると、エアコンに吸い込まれた空気は単純に暖められて吹き出されるだけですので、暖房運転時は「エアコンに吸い込まれる前」と「エアコンから吐き出された後」の空気中に含まれる水分の重さ(絶対湿度)は変わっていないということに気がつくと思います。
逆に、エアコンの冷房運転を想定すると、「エアコンに吸い込まれた空気の中に含まれる水分の量」よりも、室内機の中にある冷やされた熱交換器に凝縮する水分の分だけ「エアコンから吐き出された空気に含まれている水分の量」が減っていることがわかると思います。
つまり、エアコンの暖房運転では絶対湿度は変化しないが、冷房運転では露がドレンホースから室外に排出される分だけ、エアコンから吹き出される空気の絶対湿度が下がっているということになります。
この絶対湿度の話は比較的理解できやすいと思います。
ただ、今回テーマにしているのは「相対湿度」の方ですので、暖房運転時に相対湿度がどのように変化するかということについてもう少し深掘りしていく必要があります。
先程のおさらいになりますが、相対湿度とは「今の空気の状態(温度など)で含むことができる水分量を100%とした時、今の空気中に含まれている水分の量はどれだけか?」というものになります。
そして、温かい空気はたくさんの水分を含むことができ、冷たい空気は少ない水分しか含むことが出来ないという性質があることも知っておきましょう。
例えば、冬のさむ~い朝、部屋の温度計を見てみると、温度は10℃、湿度(相対湿度)は52%を表示していたとしましょう。
そして、エアコンの暖房をつけて部屋を20℃まで温めたという状態を想像すると、部屋の中にある水分の重量は変化していない(エアコンの暖房は部屋の中から外に水分が排出されない)ため、部屋の温度が上がった分、そこにある空気はより多くの水分を含むことができる状態に変化したということが想像できると思います。
具体的なエアコン暖房時の相対湿度を求めるためには湿り空気線図(h-x 線図)を使うのが正確なのですが、今回は、ざっくりとした相対湿度が求められる表を準備したので、そちらを使って確認していきます。
上記の表を確認していくと、部屋が冷えた状態では空気温度は10℃、相対湿度が52%であることがから絶対湿度は0.004[kg/kg]ということがわかります。
エアコン暖房では絶対湿度は変化しない(部屋の中に含まれている水分の重さは変化しない、部屋の中と外で水分の出入りはない)ため、その絶対湿度のまま部屋の空気が温まり20℃となると考えることが出来ますので、暖房後の空気温度が20℃の場合の相対湿度は27%となります。
このように空気は単純に暖められるだけだと空気をたくさん含むことができる状態(相対湿度が低い状態)に変化するため、単に室内に熱を放出するエアコン暖房を使うと、相対湿度が下がるという結果になってしまいまうため、このことがエアコン暖房を使うと部屋が乾燥してしまう(室外に水分が持ち出されてはいないのだけれど、相対湿度が下がってしまう)という主な原因となることがわかると思います。
【乾燥原因その2】窓サッシへの結露で水分が室外に排出されるため
エアコン暖房以外の部屋乾燥の原因の一つに考えられるのは、窓ガラスやアルミサッシなどに付着する結露水があります。
これらの結露水は部屋の中の空気から発生している(サッシ付近で空気が冷やされ、保持できなくなった水分が冷たい窓ガラスやサッシに凝縮して室外に排出される、冷房時の室内機の熱交換器と同じ原理)ため、ここに凝縮した分だけ空気中の水分が減る(この場合は空気中の水分が少なくなっているので、絶対湿度の方が下がる)ことになります。
例えば、先程の表で確認してみるとわかるのですが、同じ温度でも絶対湿度が下がる(部屋の中の空気中に含まれる水分の量そのものが減る)と相対湿度も下がる(部屋が乾燥する)ということになります。
これは窓ガラスやアルミサッシが除湿機になっている(空気中から水分を分離している)ようなものなので、感覚的にはわかりやすいのではないかと思います。
窓一枚一枚の除湿作用はそこまで大きいものではありませんが、部屋に複数枚窓がある場合、無視できないレベルの除湿作用が生まれていることになりますので、窓の除湿作用も部屋の乾燥の原因であるということを理解しておきましょう。
【乾燥原因その3】24時間空調によって低湿空気の流入するため
そして、もう一つ紹介しておきたいのが、最近の住宅の多くに設置されている24時間換気システムによる空気置換による原因です。
24時間換気とは、住宅内のシックハウスに関する化学物質の濃度を下げるために、1時間あたり住宅内の空気の半分を外の空気と入れ替えることを目的に設置されたシステムのことをいいます。
換気方式にはいろいろな種類がありますが、基本的には上記の考え方(1時間に住宅内の半分の空気を入れ替える)ことを目的としていることを知っておきましょう。
例えば、冬の暖房時を想定すると、室外の温度が5℃、相対湿度が72%の状態の空気が部屋の中(室温20℃)に入ってきて来た場合、その空気は最終的には20℃に暖められて相対湿度が27%になってしまうということになります。
つまり、冬の暖房時24時間換気システムによって、部屋の中の水分を大量に含んだ空気が外に排出され、かつ、乾いた空気が大量に部屋に送り込まれている(部屋の空気は2時間に一度入れ替わるレベル)ため、部屋の中の水分量(絶対湿度)が小さくなり、その結果部屋が乾燥してしまうということが起こっています。
この24時間換気による部屋の乾燥への影響度は極めて大きく、前のページでお話したエアコン暖房による相対湿度の低下と同じぐらいの影響度合いと考えていいと思います。
このように、現在の住環境をよくよく調査すると、暖房で部屋が乾燥するのはエアコンだけではないということが理解できてくると思います。
暖房時の部屋の乾燥を防ぐ具体的な3つの方法
ここからは、暖房時の部屋の乾燥を防ぐための具体的な方法についてお話していきます。
【乾燥を防ぐ方法1】加湿器を使う
部屋の空気の乾燥を防ぐために一番効果的な方法は加湿器を使うという方法です。
加湿器を使うということは部屋なかに水分を放出する、つまり部屋の中の空気の絶対湿度を上げることにより、相対湿度を上げる(室温は同じと仮定する)という効果を狙った対処法になります。
部屋に水分を持ち込むという意味では、洗濯物を部屋の中に干すという方法でも加湿器の代わりとして代用することが出来ますので、参考にしてみてみるといいでしょう。
【乾燥を防ぐ方法2】水分が発生する暖房器具を使う
石油ファンヒーターや石油ストーブは灯油を燃やして室内を暖房します。
この灯油の中には水分が含まれている(1Lの灯油約1.4kgの中には1.1kgが含まれている)ため、灯油を燃やして部屋を暖めるタイプの暖房器具を使うと暖房と同時に水分が部屋に放出されるため、加湿も行われていきます。
都市ガスやプロパンガスなどで暖房するガスファンヒーターなども同じです。
ただし、目標の湿度約50%前後まで到達しようと思うと、これらの暖房器具から発生する水分の量だけでは加湿量が足りないケース事が多く、エアコンよりは多少ましだというレベルです。
上記のような石油ストーブの場合、ストーブの上にやかんなどを置いて湯気を発生させることで加湿能力を上げることもできますので、ご参考まで。
【乾燥を防ぐ方法3】二重窓にする
もう一つ、窓を二重窓にして窓ガラスやアルミサッシへの結露量を減らすというのも一つの手です。
最近では樹脂出てきた安いタイプの二重窓も販売されていますし、下記のようにホームセンターなどで売られているポリカーボネートを使って窓を断熱することも可能です。
部屋の乾燥を防ぐだけではなく、家全体の断熱性能を上げる(暖房時の熱の半分は窓から逃げる)ことができたり、窓で冷やされた空気が床を這うように流れるコールドドラフト現象を防ぐことが出来たりもするため、暖房費の節約に効果的です。
まとめ
今回は、冬のエアコン暖房で空気が乾燥して湿度が下がる3つの理由についてお話しました。
冬場のエアコン暖房は空気がとても乾燥してしまいますので、加湿器などを併用して湿度の方もコントロールしていく必要があります。
暖房時の乾燥はとても気になることだと思いますが、あまり加湿しすぎると今度はカビが発生してしまうということもあります。
東北や北海道などの極寒の地域では、住宅内に発生する露による腐食を防ぐために、冬場に除湿機を可動させておく場合もあったりします。
加湿も程々に40~60%前後を目安にしておけば、インフルエンザ(高湿に弱い)にも、カビ(低湿に弱い)にもちょうどよい状態を実現することが出来ます。
いろいろなことを勉強し、どのようなスタンスで加湿を考えるか、ご自身に合ったスタイルを見つけていってくださいね。
それでは!